大阪地方裁判所 昭和63年(わ)39号 判決 1989年4月14日
主たる事務所の所在地
大阪府四條畷市上田原六一三番地
医療法人
和幸会
(右代表者理事長 栗岡博良)
本籍
大阪市東区玉造二丁目二六番地の一
住居
奈良県生駒市生駒台北五四番地
団体役員
栗岡博良
昭和一二年七月一五日生
右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官藤村輝子出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人医療法人和幸会を罰金四〇〇〇万円に、被告人栗岡博良を懲役一年に処する。
被告人栗岡博良に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人医療法人和幸会(以下、被告人法人という。)は、大阪府四條畷市上田原六一三番地に主たる事務所を置き、医療法人和幸会阪奈サナトリウム及び医療法人和幸会阪奈中央病院を経営しているもの、被告人栗岡博良(以下、被告人という。)は、被告法人の理事長としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告法人の業務に関し、法人税を免れようと企て
第一 被告法人の昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度における所得金額が二億五七二〇万四一六五円(別紙(一)修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、架空の広告宣伝費、福利厚生費、修繕費及び消耗品費等を計上するなどの行為により、その所得の一部を秘匿した上、同五八年五月三一日、大阪府門真市殿島町八番一二号所在の所轄門真税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億七三六〇万九二一二円でこれに対する法人税額が七〇四七万三〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告法人の右事業年度における正規の法人税額一億五五八万二〇〇円と右申告税額との差額三五一〇万九九〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ
第二 被告法人の昭和五八年四月一日から同五九年三月三一日までの事業年度における所得金額が二億八七八八万七五八〇円(別紙(二)修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同五九年五月三一日、前記門真税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億五五二七万七四一九円で、これに対する法人税額が六三六七万一一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告法人の右事業年度における正規の法人税額一億一九三六万七三〇〇円と右申告税額との差額五五六九万六二〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ
第三 被告法人の昭和五九年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度における所得金額が二億八九四〇万四四二四円(別紙(三)修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同六〇年五月三一日、前記門真税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一億九一〇八万四三〇一円で、これに対する法人税額が七九二二万八〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告法人の右事業年度における正規の法人税額一億二一七九万三四〇〇円と右申告税額との差額四二五七万二六〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ
第四 被告法人の昭和六〇年四月一日から同六一年三月三一日までの事業年度における所得金額が三億二二七九万一二五五円(別紙(四)修正損益計算書参照)あったにもかかわらず、前同様の行為により、その所得の一部を秘匿した上、同六一年五月三一日、前記門真税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が二億三一一四万四七〇四円で、これに対する法人税額が九七四二万一四〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により被告法人の右事業年度における正規の法人税額一億三七一〇万四六〇〇円と右申告税額との差額三九六八万三二〇〇円(別紙(五)税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
判示全事実につき
一 被告法人代表者兼被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書二通(証拠等関係カード検察官請求分番号74、75)
一 被告人に対する収税官吏の質問てん末書一六通(前記番号58ないし73)
一 上岡昌夫、吉國幸男、高桑博司及び栩原寛行の検察官に対する各供述調書(前記番号41、47、50、53)
一 上岡昌夫に対する収税官吏の質問てん末書四通(ただし、前記番号35ないし37、39のもの)
一 吉國幸男に対する収税官吏の質問てん末書五通(前記番号42ないし46)
一 高桑博司に対する収税官吏の質問てん末書二通(前記番号48、49)
一 西方勝子及び中井雅子に対する収税官吏の各質問てん末書(前記番号51、52)
一 収税官吏作成の査察官調査書一〇通(ただし、前記番号14ないし16、19ないし21、23、25、30、31のもの)
一 法人登記簿謄本(前記番号9)
一 被告法人理事長栗岡博良作成の証明書(前記番号10)
判示第一の事実につき
一 門真税務署長作成の証明書二通(ただし、前記番号5、11のもの)
一 収税官吏作成の脱税額計算書(ただし、前記番号1のもの)
判示第二の事実につき
一 上岡昌夫に対する収税官吏の質問てん末書(ただし、前記番号40のもの)
一 収税官吏作成の査察官調査書三通(ただし、前記番号18、32、33のもの)
一 門真税務署長作成の証明書二通(ただし、前記番号6、12のもの)
一 収税官吏作成の脱税額計算書(ただし、前記番号2のもの)
判示第三の事実につき
一 上岡昌夫に対する収税官吏の質問てん末書(ただし、前記番号38のもの)
一 収税官吏作成の査察官調査書七通(ただし、前記番号17、24、28、29、32、34、38のもの)
一 株式会社大丸心斎橋店経理部係長牧岡保雄、圓井謙三郎及び被告人作成の各確認書(前記番号54ないし56)
一 門真税務署長作成の証明書(ただし、前記番号7のもの)
一 収税官吏作成の脱税額計算書(ただし、前記番号3のもの)
判示第四の事実につき
一 収税官吏作成の査察官調査書七通(ただし、前記番号22、24、26ないし29、32のもの)
一 門真税務署長作成の証明書(ただし、前記番号8のもの)
一 収税官吏作成の脱税額計算書(ただし、前記番号4のもの)
(法令の適用)
被告人の判示所為は、いずれも法人税法一五九条一項に該当するので、所定刑中懲役刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一年に処し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。
さらに、被告人の判示各所為は被告法人の業務に関してなされたものであるから、被告法人については、いずれも法人税法一六四条一項により判示各罪につき同法一五九条一項の罰金刑に処せられるべきところ、情状により同条二項を適用し、以上は、刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で被告法人を罰金四〇〇〇万円に処することとする。
(被告人に対する懲役刑選択の理由)
弁護人らは、被告人に対しても罰金刑をもって処断すべきである旨主張する。
しかしながら、本件は、被告人の統括する被告法人において、その医療設備充実の資金を蓄積するなどのため判示犯行に及び、結果として四事業年度にわたり合計約一億七三〇〇万円の法人税を免れたという事案であって、そのほ脱税額は右のとおり多額である上、右ほ脱の動機とても格別酌むべき事情とはなり得ず、また、被告人は、本件においてかなり主体的かつ積極的に行動していることなどに照らすと、その刑責は軽くないというべきである。してみれば、たとえ本件のほ脱率が四事業年度の平均で三五パーセント程度にとどまっており、犯行の手段、態様も特にこれが巧妙で悪質なものとまでは評し得ないこと、本件犯行は同和団体の組織を利用してなされたものであるが、この種ほ脱事犯については当時の税務当局側の対応にも問題がなかったとはいえないこと、被告法人においては、本件ほ脱税額に関し、本税及び附帯税の全額を既に納付済みであること、本件で懲役刑を選択した場合、被告人は医療法四六条の二第二項三号の適用により被告法人の理事長を退任しなければならず、その結果、ひいては同法人の今後の経営にも深刻な悪影響を及ぼしかねないこと、その他被告人の反省の念や社会的貢献の度合いなど、弁護人ら指摘の有利な諸点を十分考慮に入れても、本件はとうてい罰金刑で処断すべき事案ではなく、被告人に対して懲役刑の選択はやむを得ないところと考える。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 白井万久)
別紙(一) 修正損益計算書
<省略>
別紙(二) 修正損益計算書
<省略>
別紙(三) 修正損益計算書
<省略>
別紙(四) 修正損益計算書
<省略>
別紙(五) 税額計算書
<省略>
<省略>